ドクターインタビュー

積極的な乳がん検診を

積極的な乳がん検診を

外科野地みどり

外科ドクターインタービュー

野地みどり

乳がんは本邦の女性のがんの中で発生数が多く、死亡原因の上位に位置しています。また、他のがんと比べて、比較的若い年齢で発症することも特徴的です。一方で、現在では乳がんのすぐれた検査法や有効な治療手段がたくさんあります。できるだけ小さく、転移を来していない時期に発見して、適切な治療を受ければ、十分に完治可能です。そのためには乳がん検診が非常に大切になります。 遠山病院では、女性だけのチームで検診・診断・治療が可能な体制をとっており、発見から治療まで安心して治療が受けられるよう配慮しています。今回、日本外科学会専門医、日本消化器外科専門医で、当院の乳腺外科を担当されている野地みどり先生に、検診を中心とした最近の乳がん診療についてお話を伺いました。

乳がんは増えているのですか?

「がんの統計2021(がん研究振興財団)」によると、2020年に日本の女性の92,300人が乳がんに罹患し、15,500人が乳がんで亡くなったと推定されています。また、生涯においておよそ10.6%の女性が乳がんに罹患するとされ、つまり約9人に1人が乳がんにかかるということになります。
乳がんにかかる年代は30代後半から急増しています。その上、40~64歳の世代では乳がんは女性のがんによる死亡数で1位を占めており、乳がんは、働きざかり・子育て世代の比較的若い世代にかかるがんと言えます。だからこそ、自身だけでなく、ご家族のためにも検診の大切さを理解してもらえればと思います。

どういう人が乳癌になりやすいのですか?

乳がんを含め、多くのがんは遺伝子の異常によって発症することが分かっていますが、その原因には先天性と後天性の2つがあります。 まず、先天性の要因についてご説明します。乳がんの危険因子の中で、最も高い関連性を示すのは乳がんの家族歴です。母親が乳がんに罹患した場合の発症リスクは一般女性の約2倍とされていて、患者さん、ご家族とも乳がんが遺伝することをとても心配されます。ただし、「家族性乳がん」と「遺伝性乳がん」の違いには注意が必要です。乳がん発症に関連する遺伝子としてBRCA遺伝子などが注目されていますが、これら異常による「遺伝性乳がん」は全乳がんの約5~10%に過ぎません。他方、「家族性乳がん」は必ず遺伝するものではなく、リスク因子として、検診を受けるきっかけにしてもらえればよいのです。 次に、後天性の要因である生活習慣についてです。古くから出産、授乳は乳がんのリスクを低下させることが知られています。逆に、早期初経、晩期閉経は、乳がん発病のリスクを高めます。定期的な運動は特に閉経後の女性でリスクを低下させるとされており、健康面からも推奨されています。その他、アルコール摂取や夜間勤務などの不規則な勤務が「リスクを高める可能性がある」とされているのも、がん予防の観点からは興味深い情報になります。

乳がん検診の実際は?

乳がん検診は、国の指針によりますと、対象は40歳以上で、問診、乳房X線検査(マンモグラフィー)が基本になっています。乳がん検診はマンモグラフィーが国際基準ですが、乳腺の密度が高い40代の検診精度が低くなるという課題があり、近年、マンモグラフィー検査に「超音波検査(エコー)」を組み合わせているところもあります。マンモグラフィーに超音波検査を加えた方が、がんの発見率が1.5倍高かったという報告もありますが、普遍的ではないため、あくまでも基本はマンモグラフィーが中心です。同じように、視触診や超音波検査は、乳がんで亡くなることを防ぐ科学的根拠が不十分なため、強くは推奨されていません。ただし、超音波検査は無害で、疼痛もないことから、しこりなど病変を疑うケースでは大変有用な検査方法になります。

乳がんの初期症状ってありますか?

乳がんの主な症状は、乳房の「しこり」です。自分で乳房を触ることで気付く場合もあります。他には、乳房に「くぼみ」ができる、乳頭や乳輪がただれる、左右の乳房の形が非対称になる、乳頭から分泌物が出るなどがあります。乳房のしこりは、乳腺症など、乳がん以外の原因によって発生することもあります。気になる症状がある場合は、早めに乳腺外科などで乳腺専門医の診察を受け、早期発見につなげましょう。

乳がんの治療は進歩していますか?

乳がんの治療には、手術(外科治療)、放射線療法、薬物療法(抗がん剤、ホルモン療法など)があり、時代とともに大きく進歩してきています。その中で、乳がん治療の基本は、手術によってがんを取りきることになります。手術方法には乳房温存手術や全切除術があり、術前・術中の検査によって、術式や腋窩リンパ節郭清の有無が決まります。また、手術後、摘出したがんの病理診断によって、術後の治療計画(薬物療法や放射線療法など)も検討します。なお、がんの状態によっては、手術の前に薬物療法を行うこともあります。これら治療は、がんの進行度や組織型、病理学的グレード分類、サブタイプ分類(乳がんの性質)に応じた標準治療を基本とし、本人の希望や生活環境、年齢を含めた背景を総合的に検討し、話し合って決めていきます。なお、進行度にかかわらず、診断されたときから、がんに伴う心と体のつらさなどを和らげるための緩和ケアを受けることも大切です。

乳房を意識する生活習慣「ブレスト・アウエアネス」について教えてください。

「ブレスト・アウエアネス」とは「乳房を意識する生活習慣」のことを言います。乳がんは自分でも見つけやすいがんですから、日常生活でも「ブレスト・アウエアネス」を身に着けることで、自己検診が可能になります。

<セルフチェックの方法>

・毎月、月経開始から7〜10日後に行いましょう。

・閉経後の人は毎月、日を決めて行いましょう。

まず見る

・掲載鏡の前で両手を挙げチェック。

・大きさ・輪郭・形は変わりないか。皮膚のくぼみやひきつれ。部分的な盛り上がりや変色。乳首の陥没やひきつれ。湿疹やただれ。乳首からの乳汁とは違う分泌物(特に血液)。

次に触ってみる

・入浴時に石鹸をつけてチェック。

・仰向けに寝てチェック。

・4本の指で「の」の字を描くように触る(つまみあげてはいけません)。気になるしこりはないか。脇の下や鎖骨付近で、しこりのような触れるものはないか。

女性自身が乳房の状態に日頃から関心を持つことにより、乳房の変化を感じたら速やかに乳腺専門医に相談しましょう。

最後に読者にメッセージをお願いします。

乳がんは早期発見をすれば、完治可能です。仕事や子育てで忙しい時期でも、あなただけでなく、あなたの家族のために乳がんの知識を深め、「ブレスト・アウエアネス」の習慣を身に着けるとともに、検診の大切さを理解し、定期的な検診を受けられることをお勧めします。